ショートストーリー

毎週月曜日に短編小説投稿を目指します。ジャンルは様々。

2019-01-01から1年間の記事一覧

ギブアンドテイク

ギブアンドテイク 御恩と奉公みたいなものだろうかと思う人もいるのかもしれない。 だが、Aの思うギブアンドテイクとは実際のところ、友人同士の持ちつ持たれつなどという可愛い言葉では収まらない、非常に忌々しいものである。Aの思うこの言葉はただの単語…

Aは残す人だった。 行った先々では1つ、お土産を買うしその地を代表するような場所で写真を撮った。絵を描いて、旅行先の感想を書いた。母校には何かしらの寄付をした。Aは毎日日記を忘れなかった。 Aは今まで購入したCDも小説も手元にあるし、レシートも給…

狭い狭い視界

人は自分が思う以上に凝り固まった思考をしている。そしてそれは、常に、毎日、毎時間、毎分毎秒でコリを解していかねばならない。 例えば、Aが「太陽は赤い」と思っているとするならば、太陽が赤く染っている夕暮れの写真や子供の書いた赤い太陽の絵を好ん…

自信とは

永く生きていればいるほど、自分の考えが正しいと思うことが多くなる。要領を得て正しいと思うことがわかってくる。 そこが怖いとAは思う。 正しい意見は自分の殻をより強くしていく。正しいの物差しは常に変化する。殻は周りの変化を見えなくする。 そうい…

虫とは

僕に痛覚は無いと思う。 痛覚というのは、例えば、簡単に言うと、 ━━━━学者には怒られてしまうかもしれないが 体が危険な状態になった時に、危険だよ、このままだとこの体は壊れてしまうよ、死んでしまうよとそういったメッセージであると思う。危険な状態を…

「まずなんだけどぉね。スマホなんてものがぁ普及したからというのも理由の一つだと思うよ?でもね、真実を伝えるべきメディアが真実を伝えないという不信感じゃないかと僕はぁ思うんだよ。」 Aの前に座る男は早口に言った。 「テレビというメディアにもう価…

あにもうとⅠ

Aは手が止まった。全く分からない文字の羅列を見て頭がおかしくなりそうだった。意味不明な文字列にわからない人名、勉強出来なかったことを後悔しそうになったが自分は忙しかったのだ、仕方ないと納得した。 先日、兄が亡くなった。 交通事故に遭ったらしい…

地球貢献度

気づいたら死んでいた。 「なので、貴方は……へ行くことはできません。」 視界がブラックアウトしたかと思えば二度と見たくもない会議室の光景。Aは気づいたらそこにいて、気づいたら椅子に座っていた。目の前には灰色のスーツに身を包んだ真面目そうな女性。…

夏の日

Aはいつも彼女を見ていた。Aの前を通る彼女は真っ白のワンピースをはためかせながら、悠々と歩くのだ。恋に落ちた。好きだと思った。彼女は茜色に落ちる太陽よりも眩しかった、夏の日差しよりも綺麗だった。 Aは、まだ名も知らぬ彼女を毎日毎日見ていた。夏…

自察

川を見下ろしながら、歩く。緑に淀んだ隅田川を、端に触れないようのぞき込む。端に触れてしまえば飛び込みたくなる気がした。飛び込んで、飛沫を浴びて、消えてしまいたいと思いたくなる気がした。川に流れて目を瞑れば、どれだけ気持ちいいだろう。緑に溶…

共感覚

共感覚、すなわちエンパスは高い共感能力がある。 Aは人に対して強く出ることが出来ない。その人に対して不満を言うことが出来ない。喧嘩することが出来ない。他人を傷つけることは自らを傷つけるよりも辛いことである。自分のことは後回しで自分の痛みにひ…

合コン

Aはフェイスクリームを手に取り、顔全体に伸ばす。顎から耳の下までクリームを伸ばし首筋に降ろす。次に目の周囲を揉みこみ、額から顔の側面を揉み、首筋へと流す。そうしたフェイスマッサージを終えて、Aは髪を整えてスーツの着こなしを確認する。ネクタイ…

バーのおねえさん

す看板のネオンが僅か雑音を鳴らす。一見お断りな雰囲気のバーにふと足を止めた。夜中だが看板のネオン以外に光はなく客引きする気のないそんなバーの扉を押した。からころと子気味良い音がなり数セットの机とカウンターが見えた。外で見るより中は広いとそ…

卵男

全身が痛い。 肩も、腰も、目も痛いし、毎朝起床しようとすると布団と皮膚が引っ付いてしまったように起きられない。Aはそうは言っても起きないといけないので、見えない糸で無理やり体を引っ張られるようにして体を起こした。Aはここ連日残業続きでタクシー…

侵略者

非人。 そのままの意味である。人でないもの。単純。 なぜ単純な名前なのか。彼らは1年前地球に降り立ち、「名前をつける時間を与えない」程早く人を殺していたから。彼らはなんの為地球に来たのか、なぜ殺すのか一切の説明はなかった。 白くヌメリとした肌の…