ショートストーリー

毎週月曜日に短編小説投稿を目指します。ジャンルは様々。

「まずなんだけどぉね。スマホなんてものがぁ普及したからというのも理由の一つだと思うよ?でもね、真実を伝えるべきメディアが真実を伝えないという不信感じゃないかと僕はぁ思うんだよ。」
Aの前に座る男は早口に言った。
「テレビというメディアにもう価値は無くなってしまったというわけだ。」
男はふと外の窓を見た。Aも釣られて左を向くと夜空を背景に自分の顔がうっすらと映る。
「テレビが今まで支持されていたのはなぜだと思う?僕はね、庶民が言えないことを、庶民を代弁してより多くに伝え、庶民同士を共感させるツールであったからだと僕はァ思うよ。テレビは平民の味方で、代弁者で、知りたいことを教えてくれる内々仲間であったから支持されたんだぁ。
だが今のテレビはどうだ?大きか影響力を持ったことで奢り権力の上に胡座かいてニタニタ笑っていたわけさ。」
へぁっと不器用に笑った男の顔は大変皮肉めいていた。
「庶民をであれど、アホじゃあない。今は……おいあと何駅だ?まだ先か、そうか。それでな、ええと、そう、テレビはもはや庶民の味方では無くなったというわけだ。庶民なんていつでも騙せると思っていたのさ。テレビである俺たちを信じるしかないとねそんな態度が滲み出ていたのさ。」
男はモゾモゾと足元の荷物を正し、姿勢を直した。
「真実を捉え、サラリーマンが酒の席で愚痴るような、余興のようなそういうのが見たかったのさ。でも今は、違う。特に若いのはな。」
駅名を伝えるアナウンスに男はすっと立ち上がる。合わせてAも立ち上がり、つり革を持った。
「若いのが生まれた時にテレビはもう神話では無くなってたんだ。受け入れられない差別を流して不快にさせ、真実は闇で覆い隠され、権力にまみれたテレビというメディアはもはや存在意味が無い。忖度のないSNSのがよっぽど信用性があるという事だ。テレビはもはや、見放されているんだ。挙句の果てにはSNSのトレンドを数週間遅れで伝える出来の悪い情報媒体さ。」
ガタンと揺れ、電車が止まり、扉が空いた。男は軽く手を挙げて出た。