ショートストーリー

毎週月曜日に短編小説投稿を目指します。ジャンルは様々。

合コン

Aはフェイスクリームを手に取り、顔全体に伸ばす。顎から耳の下までクリームを伸ばし首筋に降ろす。次に目の周囲を揉みこみ、額から顔の側面を揉み、首筋へと流す。そうしたフェイスマッサージを終えて、Aは髪を整えてスーツの着こなしを確認する。ネクタイのズレ、スーツのシワを確認しカバンを持ち、外に出る。仕事終わりの夜は、久々の合コンである。それも、親や職場からの結婚しないのか?という圧力が強まったせいである。新卒入社して5年目、27歳のAはもうそろそろ……と言われる時期に差し掛かっていた、焦りだった。
 現場や力仕事といった業務の全ては機械に取って代わられた。事務作業も全ては機械化、数字を取るような営業は公正取引の観点から消えた。今存在している職種は全て、所謂サービス業と研究職である。女性の理系職に占める割合も男性より増え、女性の社会進出が進んだ結果、男性は家庭にはいるものという認識である。女性が子供を授かってから母乳を卒業するまで男性が一時的に働き、子供が育ってから男性が家庭に戻るというスタイルが主流である。今や平均年収は女性の方が高い。男性の体力が子供遊びに向いており、家庭内でまだ残る力仕事をこなすことが利点であるから、とされた。
  いつもの電車に乗り、職場へと向かう。車内広告には、「男はつるり肌」などといった髭脱毛の広告や中年太りを戒めるダイエット広告が並びげんなりする。髭面でクリーム等保湿されていない顔面の男は女には選ばれないから脱毛もしたしクリームも欠かさない。男性なのに筋肉質でなければ女性からはデブだと言われるから毎日の運動も欠かさず、つまり、自分磨きには気をつけている。が、Aはまだ結婚できていなかった。Aは女性と結婚がしたかった。男の幸せは家庭にある、と感じるようになってきたのだ。職場と自宅の往復は虚しかったし、妻が欲しかった。今の職場を寿退社して専業主夫として尽くしたいと思う。というのは建前で、早く仕事を辞めてゴロゴロした生活を送りたいのが本音である。早く辞めたい、早く。
 従来は、定年退職後の男性は仕事のみに生きていたことから孤立しやすくなり特に熟年離婚した場合、孤立が深くなり生活習慣の悪化等による孤独死が問題とされていた。しかし、男性が家庭に専念することで男性の性格は幾分柔らかくなることが認められ、家庭不和が起きにくいとされた。
 歩きなれた通勤経路を行き職場へ、デスクに座ると上司が歩いてデスクの近くへ来た。
 「どうかしたんですか」
 「君はいつ結婚するの?」
 またこれだ。
 「やだなあ、交際相手も居ないのに結婚できないでしょ」
 愛想笑いを混ぜながらいつもの答え。
 「はやくいい人見つけなね、社内交流も深めたら?」
 上司が目線を逸らした先にあるのは独身女性。直属ではないものの上司にあたる女性だがもう50になり、仕事が出来ていないことを理由にAに怒鳴り散らしてくることが多々あるのだ。
 上司はニタリと笑いながら去っていった。

 Aは御手洗に入り、ウェットティッシュで靴を拭く。鏡で襟を整え髪を撫で、席へ向かう。Aは仕事終わりに、合コン会場となる居酒屋へ向かった。5:5で男女が集まり、男性の参加者は1人は友人であと4人が友人の友人と言った具合であった。席に着くと全員に生ビールが運ばれており「A!遅いぞ!」とジョッキを持たされて幹事がこの出会いに!等言って乾杯した。
 「おいA、気合い入ってんな」
 「そら、もう3年くらい彼女いねえからな」
 小声でそんな会話をしながら席を変えていく。Aの隣には毛先を巻いた女性が隣に座り、赤く塗られた口元をあげて挨拶される。Aも簡単に自己紹介しながら軽く話をした。彼女は大手商社に働いており、都内にマンションを所有しているということだった。学歴はAより高く才色兼備という言葉が似合う美しい女性だった。女性陣の1人はトイレに行ったのか席を外すことはあったがしばらくして戻ってきた以外ほかの男女もかなり打ち解けていたようだった。話が弾んだところで、彼女はAの腿を指先で触れAは震えた、大胆である。しかし、話が盛り上がっているとはいえ初対面の人間に触れられることは違和感のあることであった。彼女は気にせずAに小声で話しかける。
 「キミさあ、私の好みなんだよね……」
 彼女が手を挙げて酒を頼んだ。
 「もっと飲も、もっとAくんのこと知りたいんだ」
 Aは火照る顔を隠すように、頼まれた酒を煽る。
 それ以降の意識はなかった。気づいた時には体の疲労感と共に公園のベンチにいた。

 Aは後日幹事の友人に抗議したが、彼女は酔っ払って歩けなくなったAを介抱していたと言った。重かったから途中置いたのだろう、感謝しろとの回答だった。Aは失敗か、と肩を落とす。
 少したって、Aは養育費についてという書類が自宅に届く。驚いたAは名前のあった彼女へと連絡を取る。Aは彼女の指定した喫茶店へと向かった。
 「妊娠しました、そういうことです」
 彼女は毅然と珈琲を飲む。
 「なんで、あの時ヤッたってのか!?」
 「そう、この子の父親は貴方だから、鑑定してもいいけど」
 「なら、もう結婚でいいじゃないか」
 Aは混乱していた。
 「はァ、私が何故2人養わないといけないの?私は家事も育児も仕事もできる。両親もいるし、主夫なんていらないの、だから養育費だけもらうわね。
 だってこの子は貴方が父親だもの」
 親とは、なんだろうか。